遥か遠く
あの空の向こうへ行くときも
隣にいるのは
いつも君でありますように
遥か彼方へ
スズメの鳴き声と、微かに聞こえる人々のざわめき。
リビングのカーテンから、うっすらと陽の光が差し込んでいる。
あぁ、今日も一日が始まったんだ。
軽く伸びをして、あくびを一つ。
寝たのは0時を過ぎていたのに、起きたのは陽が昇り始める五時前だったから。
案の定寝不足で。
それでも、眠気なんて感じさせないくらい、私は見入っていたんだ。
だって、手は汗ばんでいるし、心臓がドキドキしている。
チャンネルを変えると、爽やかな笑顔のアナウンサーがニュースを読み上げている。
それをぼんやりと聞きながら、今だに冷め切らない胸のドキドキを、彼に伝えたくて仕方がなかった。
携帯を開いて、着信履歴からリョーマ君の番号を見つけ出す。
起きてるかな・・・見終わってすぐ寝たかもしれない。
もしかしたら、起きれなくて見なかったかもしれない。
電話マークのボタンを押すか押さないかで、親指が迷っている。
少し仮眠をとって、午後にかけようかな。
と思ったら。
「わっ・・・」
携帯がブルブル震えて、着信ランプがリョーマ君限定の青に光る。
マナーモードにしておいてよかった・・・音がなったら、お母さん達起きちゃってたよ。
リビングにいたら声が聞こえちゃうから、少し急いで自室へ移動。
「・・・もしもし?」
『?起きてた?』
リョーマ君の声。
ハッキリしてるから、きっと彼も興奮が冷めやらないんだろう。
カーテンを開け、窓を全開にしてベッドの上に寝転んだ。
「起きてたよ。リョーマ君に電話かけようか、迷ってたんだ」
『かけていいのに』
「だって・・・眠っちゃったかなって」
『眠れないよ。あんな試合見たらさ』
リョーマ君も見たんだ。
「すごかったね」
『・・・ああ。すごかった。本当に』
リョーマ君が他人のプレーを褒めるなんて、滅多にない。
あったとしても、素直に言わなかったり、心の中で、だったり。
本当に、すごいプレーだった。
テニスをやってない私でさえ魅了された試合だった。
全米オープンテニス決勝の地は、ニューヨーク。
そこで行われた、アメリカ人とスイス人の決勝戦。
開始時間は、日本時間で朝の五時。
私はどちらの味方、というわけじゃないけれど。
約2万3千人で埋まったスタンドは、ほとんどがアメリカ人。
アメリカ側が1ポイントを取るたびに、大歓声が沸き起こる。
きっと、スイス人である彼のプレッシャーは相当なものだったろう。
それゆえか、ミスも目立ったけれど勢いで押し切り、流れを取り戻して。
ウィンブルドン三連覇に続き、彼は全米二連覇を達成した。
その瞬間、彼はこぶしを振り上げ、体全体で喜びを表した。
「彼と、試合してみたい?」
『もちろん。俺は負けないよ』
リョーマ君らしい答え。
いつもそうだ。
リョーマ君はいつだって、遥か高みを目指している。
「リョーマ君は・・・負けないもんね」
負けてしまったときもあったけど。
突き進むことはやめない。
すべての経験を生かして、壁を通り越していく。
『俺がどうして負けられないか知ってる?』
少し真剣な声で。
でも、すごく優しい声で。
リョーマ君の声に、私は耳を澄ます。
「・・・・どうして?」
『・・・・・・守りたいものが、あるから・・・・・』
車のクラクションが、微かに聞こえる。
小さな子供の笑い声が、塞がれていない右耳に響いた。
『の笑顔をさ・・・守りたい』
「・・・・リョーマ君・・・・・・?」
『俺が勝てば、が喜ぶ。だから負けられない。
・・・そりゃ、誰にも負けられないっていう俺のプライドもあるけど・・・ね』
そういうリョーマ君の声は、少し照れくさそう。
嬉しくて、心がグッとくる。
「ねぇリョーマ君・・・・」
風になびく青学ジャージ。
前を真っすぐ見据える鋭い瞳。
「私が喜ぶのは・・・・・・リョーマ君が勝ったからっていうだけじゃないよ・・・・・」
赤いラケット。
黄色いテニスボール。
緑色の神聖なコート。
「一試合勝つたびに・・・・リョーマ君が目指しているものに近づいている気がして・・・それが嬉しくて・・・・」
大好きな人が、夢に近づく。
それだけで、笑顔になれる。
幸せになる。
ただ、それだけのことなのに。
『・・・・・・・・・・・・・・』
「・・・ん・・・・・?」
嬉しくて、涙が止まらないよ。
『将来、ウィンブルドンで・・・・・・・・俺が勝ったら・・・・・・・・・キス、してよ?』
「もう、リョーマ君ったら・・・・」
いつもいつも、してるのに。
『・・・・でも、それまで待てないから・・・・・・・・』
やわらかい初秋の風が、部屋のカーテンを優しくゆらす。
「今、して?」
「リョーマ君!?」
外から声がしたと思って窓の下を見ると。
携帯片手にリョーマ君が見上げていて。
私は慌てて、カーディガンを羽織って静かに家を出た。
扉を閉め、門扉のところにいるリョーマ君のもとへ駆け寄る。
「おはよ、」
「あ、おはよう・・・・じゃなくって!」
突然のことで、私の頭は少しパニック状態。
「なんでここに・・・」
「声聞いたら、に会いたくなった」
そう言って、私の頬に流れる涙の後を見つけて苦笑する。
「泣いたの?」
「だって・・・リョーマ君がっ・・・・」
嬉しいこと・・・・・言うから・・・・・。
最後のほうは声にならなくて。
思い出して、また泣きそうになる私を、リョーマ君は優しく抱きしめた。
「リョーマ君っ・・・・人が・・・・」
「へーき」
「でもっ・・・・・・・・!」
慌てて顔をあげたら、そのままキスをされて。
人通りは少ないとは言えない場所で。
額に、まぶたに、鼻の頭に、頬に。
唇に、キス。
「・・・んっ・・・・」
暖かい日差しが降り注ぐ。
「ねぇ・・・・・・」
「どんなに遠く・・・・・遥かに遠い高みでも・・・・・・」
「いつも・・・・・・・隣にいるのは、だけだから・・・・・・・・・・・・」
乾いた頬に、再び雫がこぼれて。
リョーマ君は、優しく掬い取ってくれた・・・・・
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2005年全米オープンテニスの結果を新聞で知り、たぶんリョーマなら見るんだろうな〜と思って書きました。
私は見てません; 朝の五時は起きれませんでした・・・。
相手がプロだろーがなんだろーが、きっと彼は突き進むんだろうなぁ。
リョーマ、密かにさんに将来のこと約束させてます(笑) 砂糖が吐けそうだ・・・