散髪場所は、広いお庭で

 

 

 

  散 髪 日 和 2

 

 

 

小さなイスに座り、上半身裸のリョーマ君は首に軽くタオルを巻いている。

キレイについた筋肉に、すらっとした腰。

たぶん私は、今・・・。

 

「何真っ赤になってんの?

 

真っ赤にならないほうがおかしいよ!

そう言いたいのをグッとこらえて、にやりと笑っているリョーマ君の元へ近づく。

 

「見惚れちゃった?」

「・・・別にっ・・・」

 

散髪用のハサミを持って、私は彼の後ろへ回る。

 

「そんなに見たかったら、いつでも見せて・・・」

「もうっ!パッツンにしちゃうよ!?」

 

すぐリョーマ君は口をつぐんだ。

よしっ。

 

「じゃ・・・切るからね」

 

彼のえりあしの髪を少しとって、人差し指と中指ではさむ。

ちょき、と小さな音がして、キレイな黒髪は地面へと静かに落ちる。

 

もう一度。

ちょき、ちょき。

 

初めてのことだから、やっぱり緊張してしまう。

集中して、あせらずバランスを見ながらハサミを入れていく。

 

えりあしを、少し。

耳の後ろを、少し。

耳の上も、少し。

反対側も、同じように。

・・・パッツンにならないように。

 

リョーマ君は、おとなしくじっとしている。

私の緊張が、伝わったのかな。

いつの間にかカルピンも庭に来ていて。

少しはなれたところで、私達をじっと見つめていた。

 

私の手をすべるように落ちていく髪。

リョーマ君の黒い髪。

日に当たって、キレイなツヤが一層きわだつ。

軽く風が吹くと、切られた髪は風景にとけて見えなくなる。

同時に、シャンプーの香り。

 

なんだかドキドキしてしまう。

 

 

「・・・どうかな?うまく切れてる?」

 

少しでもこのドキドキを和らげようと、私は手を休めてリョーマ君に話しかける。

地面に置いてある二枚の鏡を拾って、一枚を後ろで私が持ち、もう一枚をリョーマ君が持つ。

ちょっと横にずれて、リョーマ君は切られたえりあし部分を鏡に映し出す。

 

「いいんじゃない?うまいよ」

「ほんと?よかった〜」

 

ほんと、ただ短くしただけだけど。

とりあえずパッツンにはなってないし、いいよね。

 

「じゃ、次前髪ね」

 

そう言って、私は前へ移動。

リョーマ君の目の前に立っているから、頭のてっぺんが良く見える。

 

「なんか俺が小さくなったみたいでヤダ」

「ほらほら、いーから」

 

ほんと、リョーマ君は身長を気にする。

確かに、今は私の方が一cm高いけど・・・。

そんなに気にすることじゃないのになぁ。

 

「目つむって?」

 

大きな瞳がゆっくり閉じられる。

再び、私は切ることに集中する。

 

自分の手元から聞こえる、ハサミの音。

鳥の鳴き声。

風の歌。

 

・・・かすかに聞こえる、リョーマ君の寝息。

 

(・・・寝ちゃった?)

 

手を止めて、横からそっと顔をのぞくと。

気持ちよさそうにうとうとしているリョーマ君の顔。

普段の大人びた表情とは違う、あどけない寝顔。

ちょうど髪は切り終わったから、起こさなくてもいいけれど。

リョーマ君は上半身裸だから、風邪をひいちゃうかもしれない。

おまけにイスに座ったまま。

ヘタしたらずり落ちちゃうかも。

 

「リョーマ君、起きて」

 

そっと名前を呼んで、軽く肩をゆらす。

眠りが浅かったのか、すぐに目を開けた。

 

「・・・眠っ」

「切り終わったよ〜」

 

はい、と鏡を目の前にもってくる。

リョーマ君は眠そうに目をこすり、鏡をのぞきこむ。

 

「もうちょっと切る?」

「これくらいでいいよ」

 

そう言って、左右に軽く頭をふる。

 

「なんか頭軽くなった」

「ふふっ、お疲れ様〜」



「ん?」

 

片づけを始めようとすると、ぐいっと強く腕を引っ張られる。

そしてそのまま。

 

「・・・んっ・・・」

 

座っているリョーマ君に、私が覆いかぶさるような形でキス。

頭を抑えられて、顔をあげることができない。

くちゅ、と音がして、リョーマ君の舌が私の舌に絡みつく。

 

「んっ・・・はぁ・・・」

 

深く絡めて、ようやくリョーマ君は唇を離す。

真っ赤になった私の前には、余裕の笑みを浮かべる彼。

 

「お礼だよ。ありがと、

「・・・ばかっ」

 

照れた私にとって、この一言が精一杯。

 

「やっぱ、髪伸ばしといてよかった」

 

 

 

彼がそう呟いた言葉を私が理解したのは。

 

もうちょっと後のこと。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

リョーマ君は、さんに髪を切ってもらいたかったのです