泣き顔なんて 見たくない

見たいのは 笑顔だけ

 

どーしたら

 

俺はアンタの力になれる?

 

 

 

 

  第九話

 

 

 

 

「行ってきまーす!」

 

残念ながら、今日は太陽の見えない曇りの日曜日。

どんよりした灰色の雲が街を覆っている。

天気予報では、梅雨入りは来週からっていってたから、大丈夫だよね。



最近買ったばかりのワンピースにカーディガンを羽織って、私は家をでた。



遊園地なんて久しぶりだなぁ。

しかもタダで行けるのって嬉しいよね♪

今日は全部忘れて、思いっきり楽しもう。

美術のことも、全部・・・。

 

今日は九時に駅で待ち合わせ。

越前君、ちゃんと寝坊しないで来れるかな・・・?

桃ちゃんが言ってたんだけど、越前君って遅刻魔なんだってね。



思わずクスッと笑みを漏らして。

私ははやる気持ちを抑え、駅へと向かった。

 

 

 

 

日曜日の朝、九時ちょっと過ぎの青春台駅。


腕時計を見て、周りを見回す。

もう一度腕時計を見て、周りを見回す。

 

越前君はやっぱ遅刻かな?

 

少し苦笑して、ジュースでもおごらせちゃおっか、なんて考えていたら。

 

「・・・ちーっス」

 

すごく眠そうな声と大きなあくびをしながら、越前君が姿を現した。

 

「おはよ〜。遅刻だぞっ」

「走ったんスけどね」

 

目に涙をためながらあくびをする越前君をうながして、私たちはホームへと向かう。

どうやら電車は行ってしまったばかりのようで、次の電車が来るまであと10分時間がある。



越前君が柱にもたれかかって、何か言いたげにこちらを見ていた。

 

「あのさ・・・前から思ってたんだけど・・・」

「なぁに?」

「俺のこと、呼び捨てでいいっスよ」

 

鼻の頭をかいて、帽子を深くかぶりなおす。

 

「えっ・・・でも・・・」

 

なんだか、ためらってしまう。

 

“先輩”なんだし」

「・・・じゃあ・・・・・・・・越前・・・・?」

「・・・リョーマでいいっスよ」

 

リョーマ・・・。

 

なんだろ、なんか恥ずかしい!


相手は後輩なのに・・・。

 

思えば、男の子の名前を呼び捨てするのは初めて。

名前を読んだだけで、心の奥がドキドキする。

 

「リョ、リョーマ君でいい?」

「・・・まぁ、いいっスけど」

「わ、私も名前でいいよ。敬語もいらないしっ」

「・・・・・・先輩」

「う・・・うん・・・」

 

さすがに“先輩”はつけたまんま。

それでも、初めてお互いを名前で呼んだ。



すごく恥ずかしくて照れくさいけど、なんだか距離がグッと近づいた気がするのは気のせいかな?



今までにない空気が流れている、私と・・・・・リョーマ君の目の前を横切って。

電車が、ホームに滑るように到着した。


どちらともなく顔を見合わせて。

少し微笑みあって、車両の中へと入る。

 

前の方の車両だからか、そこまで混んでいなかった。

優先席前の、四人掛けのイスに並んで座る。

ドアがゆっくり閉まり、眠くなるようなスピードで走り始めた。



窓から見える、よく知っている風景が流れるのを見つめる。

ふと左を見ると、ウトウトしているリョーマ君の横顔。

鋭い大きな瞳はまぶたの中。



こうして見ると、年相応に見える。



そう思っていたら。

 

ガタン!と電車が大きく揺れて。

私の肩に、リョーマ君がコツンともたれかかってきた。



ドキッとして彼を見ると。

起きる気配はまったくなく、そのまま眠り続けていて・・・。

 

目的の駅まで、あと二十分。

 

起こすのもかわいそうだから、そのまま電車に揺られていた。

リョーマ君の体温を、左肩に感じながら。

 

 

 

 

降車駅が近づいてきたため、リョーマ君を起こして次の電車に乗り換え。

さっきの電車とは違って、座れる場所はまったくない。

人の波に押されながら、私とリョーマ君は電車に乗り込んだ。

 

「何この人混み・・・」

 

リョーマ君の不機嫌な声。

 

「日曜だからかな・・・すごいね」

 

押されて押されて、気付けば周りは人だらけ。

ドアが閉まり、人と人との間に少し間隔ができる。


ホッとして顔をあげると。

そこには、リョーマ君のドアップが。

 

「!?」

先輩、驚きすぎ」

 

そう言って、ニヤッと笑われる。

そりゃ驚くよ!

 

私とリョーマ君の身長差はたいして変わらない。

ちょっと私の方が高いかな・・・1cmくらい。

 

目の前に、リョーマ君のあの大きな瞳。

驚いた顔の私が映っている。



リョーマ君が私を見ている、と急に実感して、鼓動のスピードが上がった。

恥ずかしくなって思わず下を向くと。

 

「かなり眠いんだけど」

 

向かい合って前にいるリョーマ君が、そのまま私にもたれかかってきた。

肩に顔をうずめている状態。

 

「リョーマ君っ」

 

さっきより一段と恥ずかしくなって、私はたまりかねて彼を小声で呼ぶ。

だけど、返事はない。



あきらめて、そのまま肩を貸す。



きっと部活で疲れているんだろうな。

周りの人はそんなに気にしてなさそう・・・だし。

 

 

今までで、一番リョーマ君に近づいている今。


少し目を右に向ければ、彼の綺麗な黒髪が見える。


電車の音に負けないくらい、心臓がドキドキしている。

 

 

 

 

だけど本当は、リョーマ君はちっとも眠くないなんて。

 

 

そんなこと、私は知る由もなかった。

 

 

 

 

 

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ようやく名前で呼び合いました。 

長かった・・・。