言葉と言葉

それは会話のキャッチボール

 

少しずつ  距離が近づく

 

 

 

 

  第八話

 

 

 

 

ペンキのはげた、色気のないベンチに腰を下ろす。

昼間は暑いくらいだったけど、今は涼しい風が吹いている。


俺は寒くないけど、先輩は・・・?


なんだかボーッとお茶を飲んでいる。

・・・大丈夫そう。

 

「・・・ね、越前君は何人家族なの?」

 

ファンタを飲もうとしたら、いきなりこの言葉。

 

「・・・俺いれて四人と一匹」

「へ〜。犬飼ってるの?それとも猫??」

「猫っスよ」

「うわ〜いいなぁ!」

 

キラキラした目で俺を見る。

不覚にも、心臓がドキッとした。

 

「私も犬か猫飼いたいんだけど、お母さんがダメって言うんだよね〜」

「猫いいっスよ」

「越前君親バカ〜」

 

あはは、と楽しそうに笑う先輩。

元気そうに見えるけど、心から笑っている感じはしない。

だけど、初めて俺と会ったときよりは穏やかな表情。


いや、別に自惚れとかじゃなくて。


なんとなく、だけどね。

 

 

 

気付いたら、ベンチからブランコへと移動していた。

先輩が懐かしがって、ブランコに乗りたいと言い出したから。

ブランコなんて、何年ぶりだろ。

 

二人で緩やかにブランコをこぎながら。

交わす言葉は、お互いのこと。



家族のこと、好きな教科、好きな食べ物・・・。



誰かに、こんなに質問したの初めてかも。

 

先輩に「趣味は何?」って聞かれて。

「全国名湯の入浴剤入りの風呂に入ること」って言ったら、渋いね、って言われた。


先輩は?」って聞き返したら。

 

先輩は力なく笑って、ただ首を横に振るだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

先輩の力のない笑顔を見て。

今日の昼休みの涙の理由が、ほんの少し分かった気がする。

まぁ・・・これも確信はないんだけどね。

 

だけど、一つだけ絶対と言えることがある。

昼休みを境に、あきらかに俺と先輩の距離は近づいた。

 

 

「ただいまー」

 

扉を開けると、玄関で仁王立ちで立ってる親父・・・。

帰ってきて早々、嫌なもん見た。

今日の俺、運いいはずなんだけど。


目を合わせずに靴を脱いで、そのまま部屋に行こうとすると。

 

「まぁ待てよ。青少年」

 

なんかちょっとうざったい。

 

「おいおい、待てって。せっかくいいもんあるのによぉ〜」

 

シカトして部屋に行こうと思ったけど、思わず振り向いた。

と、同時に目に飛び込んできたのは、鮮やかなオレンジ色の紙切れが一枚。

 

「・・・なに?」

「某遊園地の無料ご招待ペアチケット〜!!」

 

いえーい、とチケットを俺の目の前でチラつかせる親父。

親父の魂胆、見え見えだし。

 

「いらない」

「っかーっ!かわいくねーな!せっかく俺が福引で当てたってのに!!」

 

何やってんだよ、いい年して。

 

「行く暇ないし、興味ない」

「一日くらい休みあんだろ?オンナノコでも誘って行きゃいーじゃねーか。
 
 菜々子ちゃんは用事があるからムリって言うしよぉ」

 

ふと、先輩の顔が頭に浮かんだ。

 

「・・・・・・・・」

「ん?どーした青少年。ほれほれ♪」

 

ニヤニヤしながら、チケットを見せびらかす。

思いっきりにらんで、親父の手からチケットをむしり取って部屋に向かった。


ドアを乱暴に閉めると、親父のからかうような笑い声が微かに聞こえる。

ムカついて、テニスバッグを床に放り投げた。

 

ふと、右手に握られているオレンジ色のチケットが目に入る。

それと同時に、頭に浮かぶのは先輩。

 

「・・・・・・・・・」

 

ベッドに腰掛けて、改めてチケットを見ると。

有効期限は今日から二週間。



・・・土曜も日曜も部活入ってるし。



諦めかけて、ベッドに横になる。

目を閉じると、まぶたの裏に先輩の笑顔が浮かんだ。


あの、力のない笑顔。



・・・遊園地連れていけば、元気出るかな。



そう思って、俺は再びチケットを見る。

チケットに印刷されているカラー写真は、ジェットコースターに乗って輝くような笑顔を浮かべている人たち。


・・・こんなアゴがはずれそうなくらい笑うとは思わないけど。

 

先輩の笑顔が見てみたい。

作り笑顔でもなんでもない、とびきりの笑顔。

 

・・・ごめん、手塚部長。

俺、今週の日曜部活休みます。

 

 

今日はきっと、最高に運がいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

運がいいと思った翌日も、やっぱり運がよかった。

 

ペアチケットだから、なるべく先輩が一人でいるときに誘いたかったんだけど。

ちょうど俺のクラスが教室移動するとき、偶然にも一人で階段をのぼる先輩を見かけた。

始業ベルギリギリだったけど、そんなのどーでもいい。


とにかく、今がチャンス。


先輩の隣には、うるさい先輩も桃先輩もいない。



俺は、先輩が踊り場まで上りきったところで声をかけた。

 

先輩」

 

栗色の髪を揺らして先輩が振り向く。

微かにシャンプーの香りがした。

 

「あ、越前君。おはよう」

「あの・・・」

「うん?」

 

首をかしげて、俺を見る。


・・・なんて誘ったらいいわけ?


ま、単刀直入でいっか。

 

「今週の日曜、あいてないっスか?遊園地のペアチケット当たったんだけど・・・」

「え!?ほんとに!?すごい!」

 

当てたのは親父なんだけどね。

でも、ここで「お父さんすごいね」とか言われたら腹たつから言わないけど。

 

「行かないっスか?」

「行きたい!でも、越前君部活は・・・?」

「・・・別に一日くらいサボっても大丈夫」

 

部活は休み、なんてウソついても、桃先輩と同じクラスだし、バレる気がしたからここは正直に。

 

「いいの?怒られちゃうよ〜」

「バレなきゃ平気。だから桃先輩に言ったらダメっスよ?」

 

こう言っとけば、絶対バレないよね。

 

「も〜、しょーがない一年だな〜」

 

そう言いながらも、先輩は嬉しそうに笑う。

直後、チャイムが耳に響いた。



俺は待ち合わせの時間と場所を手っ取り早く伝えると、猛スピードで階段を下りる。

 

 

 

足取りが軽い。

 

 

何が俺の心をこんなにたかぶらせているのか。

 

 

今はまだ、気付かないフリをした。

 

 

 

 

 

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デート、というわけではなく。

リョーマはさんに元気になってもらいたいんですね。