なんだっていいから
君のことを知りたい
どんなに
どんなに小さなことでも
第五話
「おう、越前!」
屋上に行く途中。
桃城はトイレから出てきたリョーマを見つける。
「・・・桃先輩。どこ行くんスか?」
大きなお弁当箱を持って廊下を歩いている桃城に、リョーマは訝(いぶか)しげに訪ねた。
「屋上〜。天気いいしな。越前もくるか?」
「いや、いいっス・・・」
予想通りの答え。
断られると、なんとかイエスと言わせてみたくなる。
なので。
「別に男二人で食うわけじゃないぜ。ともいるからな!」
その言葉に、リョーマはおもわず桃城を見る。
そこには、ニカッと笑う桃城の顔。
(・・・はめられた?)
おもわず顔をあげた自分にムカつきつつ。
来るか?という桃城の言葉に。
リョーマは無言で頷いた。
今日は雲ひとつない快晴。
もう六月に入ったのに、今年は梅雨がまだ来ない。
屋上から見える青い空に、白い飛行機がよく映える。
パンを三つと、でっかい弁当箱を広げる桃先輩の隣で。
俺は購買で買った二つのパンをコンクリートの上に置く。
「そんだけで足りんのかよ?」
「・・・桃先輩が食い過ぎなんすよ」
「そうかぁ?」
ファンタのプルタブをあけて、ノドに流し込む。
暑いくらいの日差しだから気持ちいい。
先輩達は、まだ来ない。
俺がいると知ったら、先輩はどう思うだろうか。
そんなことをぼんやり思っていたら。
「おっまた〜!」(※お待たせ、の略)
菊丸先輩並みに謎な言葉が聞こえ、屋上の扉が開かれた。
こんなこと、先輩は絶対言わない・・・そんな気がする。
そう思って後ろを振り返ると。
ジュースを二本持った先輩が、少しビックリして俺を見ていた。
・・・先輩いないじゃん。
「あれ?越前リョーマ君じゃない」
「・・・ども」
「おい、は?」
「なんでここにいんの〜??」
・・・ダメだ、会話がかみ合わない。
「俺が誘ったんだよ。なぁ、は?」
「何気に仲いいんだねぇ。はい桃、ジュース!」
「おう、サンキュ〜!・・・で、は?」
「ちょっと越前リョーマ君、キミそれだけでお昼足りるの?」
人の話し聞かないわけ?この人。
「俺はこれで十分っスから。・・・先輩はどーしたんすか?」
「ねぇ桃!早く教えてよ〜不二先輩の本性!」
「え?あ、ああ・・・」
絶対わざとだ。
俺の直感。
こうあからさまに無視されると腹立つ。
「いい加減にしてくんない?」
敬語なしでにらみつける。
逆ギレされるかと思ったけど、まいったと言うように先輩は笑った。
「ん〜ん、桃と違って鋭いね〜キミ」
「あ!?どーゆー意味だそりゃ!」
「そのまんまじゃない!」
「なんだと!?」
「なによ!?」
ガンッ!!
イラだってファンタの缶をコンクリートに叩きつけるように置く。
少し中身が飛んだけど、そんなのどーだっていい。
先輩は、分かった分かった、と手をふった。
「、屋上に来る途中、ちょっと先生につかまったの」
「、なんか悪いことでもしたのか?」
「んなわけないデショ。その・・・・お話があるんだって。とにかく、がまだ来ないのは、そーゆー理由」
「納得いかないね」
弁当の包みを広げはじめた先輩に向かって、俺はしかめ面をする。
「どーして?」
「ただそれだけの理由なら、言うのをはぐらかさないっスよね」
「・・・・キミ、ほんと鋭いね」
感心したように俺を見る。
っつーか、あんな風にはぐらかされたら誰だってそう思うし。
「まじでどーしたんだよ、は」
機嫌の悪くなった俺を気遣ってか、桃先輩が会話に入る。
とうとう諦めたように、先輩は大きくため息を吐いた。
そして、少し真剣な顔になって話し始める。
「、担任の先生につかまったんだけど・・・授業に出ないのよ」
「なんの?」
桃先輩はキョトンとする。
「美術の授業。一年の時からずーっと。私が覚えてるだけでも、出席したのは二・三回かな」
「二・三回って・・・成績どーなるんだ?」
「1に決まってるじゃない」
「1って分かってて出ないのか!?」
「そう。だから先生も参っちゃってね・・・」
知らなかった・・・なんで・・・?
「なんで・・・でないんスかね?」
「さぁ・・・。私でさえ知らないもん」
「でも、他の授業はでてるよなぁ?」
「うん。美術以外の授業はちゃんとでてるよ。成績も悪くないし。ってゆーか、桃あんた同じクラスでしょっ」
「いや、話すようになったのは最近だしよ・・・」
そんなに美術が嫌いなの?先輩って・・・。
「・・・あ、この話、には言わないでね。あまり知られたくないと思うから」
「あ、ああ・・・」
「・・・っス」
「・・・でさ。桃?」
「あ?」
「本性は??」
「・・・お前しつこいな」
「ジュースおごったでしょー」
呆れた顔の桃先輩と、楽しそうな先輩。
そんな二人の会話が聞こえないほど。
俺は先輩のことを考えていた。
「あ〜もうっ。お昼休み、あと三十分しかないよ〜」
屋上へと続く階段を上りながら、私はため息を吐いた。
とジュースを買いに行くときに鳴っていたお腹は、今はもうちっとも減っていない。
変わりに、なんだか胸が苦しい。
「とうとう呼び出されちゃったな・・・」
いつ呼び出されるんだろうと思っていたけど。
出るべき授業に出なかった私が悪いのは百も承知。
私だって、成績で1をとりたいわけじゃない。
先生も何か理由があると思っていて、怒りはしなかったけど。
少し呆れ顔だった。
『そんなに美術が嫌いなのかい?』
そんな言葉を思い出す。
「嫌いとか・・・そんなんじゃないもん・・・・」
好き嫌いの問題じゃない・・・・
嫌いなのは・・・・自分だから
言葉とともにこぼれ落ちそうになるものをグッとこらえて。
私は階段を駆けのぼった。
息を切らして。
屋上の重い扉に手をかける。
扉を開けて目に飛び込んできたのは。
私の心とは逆の爽やかな青い空と。
太陽の光を浴びて眠ると桃ちゃん。
そして。
あの大きな瞳で私を見る越前君の姿が、そこにはあった。
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ヒロインは美術が嫌いなわけでも、苦手なわけでもないよう。
それがリョーマとなんの関係があるんでしょう・・・?