逃げずに

限界を超えるまで 

走り続ける人たち

それを目の当たりにした あの日

 

 

 

 

  第二話

 

 

 

 

私が、と一緒に初めてテニス部を見に行った日から。

なんとなく気になる、男子テニス部員の人たち。

廊下で、頬にバンソウコウをはった菊丸先輩(だっけ?)とすれ違ったとき、思わず目で追ってしまった。

 

でも。

 

心臓が止まるほどドキッとしたのは、職員室前で見かけた越前リョーマくんだけだった。

 

 

 

 

「今日も不二先輩いるかな〜」

 

すべての授業が終わり、今は教室のお掃除タイム。

床を掃きながら、はすごく楽しそう。


初めてコートに行ってから一ヶ月。


毎日ってわけじゃないけど、よくテニスコートに行くようになった。

だいたい二日おきに。


行っているというより、に連れてかれているというか・・・。


別に行きたくないわけじゃない。

ただ、越前くんを見るたび、自分が情けなくなって・・・。

 

「今日も見にくんの?テニス」

 

いつの間に隣にいたのか、テニスバッグを持った桃ちゃん。

いかにも、これから部活って感じ。

桃ちゃんがテニス部員って知ってから、ちょくちょく話すようになったんだよね。

呼び方も、桃城君、から桃ちゃんに変わったんだよ。

は桃って呼ぶけどね。

 

「もち!ね〜♪」

「うん」

 

越前くんがいなければ行ってもいいんだけどなぁ、なんて思ったり。

そんな私の心を知るはずもなく、桃ちゃんは嬉しそうに笑った。

 

「やっぱ応援は女の子じゃなきゃ盛り上がんねーな、盛り上がんねーよ」

 

一人納得して、うんうんと頷くと。

 

「じゃあな。ヒマさえあれば毎日でも来いよー」

 

手をヒラヒラ振って、教室を出て行った。


大好きなテニスをするために部活へ行く桃ちゃんの表情は、すごく輝いて見える。

また自分が惨めに思えて、私は小さくため息を吐いた。

 

 

 

 

 

掃除をして遅くなったから、すでにテニスコートの周りは女の子でいっぱい。

なんとかすき間からコートを見れる場所をゲットして、そこで大人しくと並ぶ。

 

「菊丸くーん!」

「桃城先輩、頑張ってくださーい!」

 

いつもと変わらない応援。

桃ちゃん、人気あるんだね。

思わず笑みがこぼれた瞬間。

 

「リョーマくん、頑張って〜!!」

 

いきなり彼の名前が聞こえて。

私は思わずコートを見回す。

 

そこには、鮮やかなプレーを見せ付ける越前くんの姿。

 

この一ヶ月間、彼を見かけたら、絶対に目をそらすって決めていたのに。

いつもいつも、無意識のうちに彼を探してしまう。

自分でも気づかないほど、私の目は彼を追っていた。


・・・どうして、自分で自分を傷つけるようなまねしてるんだろう。


たくさんのファンの女の子達の中で。

いつもと同じように、私は越前くんだけを見続けていた。

 

 

 

 

 

 

 

「えーっ!」

「なんで“えー”なのよ。憧れの先輩方に近づけるチャンスじゃない!」

 

太陽が西に傾き、今日の練習も無事終了。

女の子もまばらになってきた今、私はの言葉に絶句。

 

「せっかく桃が誘ってくれたんだから、行くしかないでしょ!」

 

確かに近づけるチャンスかもしれないけど・・・。

・・・私はあまり嬉しくない・・・。

 

「・・・でも、それ誘ったっていうのかなぁ?」

 

ただ、帰り一緒に帰ろうって言われただけなのに。

 

「どう聞いたってお誘いじゃない!つべこべ言わずに行くよー!」

「いや〜!」

 

・・・私に拒否権はないみたい。

 

 

 

引っぱられるように来た、テニス部の部室前。

少し緊張した顔で、はドアノブに歩み寄る。

すると。

 

「っあ〜疲れたにゃ〜!」

 

タイミングがいいのか悪いのか、ちょうど部室からでてきた菊丸先輩。

にゃ〜、なんて言うんだ。

ちょっと可愛いかも。

 

「・・・・・? テニス部になんか用??」

「はい!お疲れ様です!」

 

私達に気づいた菊丸先輩が、不思議そうに顔をのぞきこんできた。

は、それに嬉しそうに答える。

部室のドアを開けて、桃ちゃんも出てきた。

 

!悪いな、待たせて」

「にゃ?桃の知り合い??」

 

チャンス到来、とが呟いたのが聞こえたけど。

私は一刻も早く帰りたかった。


このままいくと、彼が部室からでてくるかもしれない。

 

「同じクラスなんスよ。最近よく見に来てるから、一緒に帰ろうと思って・・・」

「俺も一緒に帰る!」

「道違うじゃないっスか!」

「関係にゃい!それにこんな可愛い女の子二人、桃にはもったいないっ!」

 

嬉しそうに笑うとは対照的に、私は恥ずかしくて顔があげられない。

 

「どうしたの?英二」

 

二人の騒ぐ声を聞きつけて、の憧れの不二先輩がやってきた。

間近で見ると、すごく綺麗な顔をしている。

それに優しそうな笑顔。

たくさんの女の子が夢中になるのも、うなずけちゃうね。

 

「不二!俺は今日この女の子二人と一緒に帰るんだ〜♪」

「って菊丸先輩!そこに俺は含まれてないんスか!?」

「あったりまえ〜!男と一緒に帰っても楽しくないにゃ!」

「俺が先に誘ったんスよー!?」

「残念無念また来週!ってね〜♪」

 

皆で一緒に帰れば問題ないと思うんだけどなぁ・・・。


・・・って、ダメダメ!


越前君だけには会いたくないっ。

 

そう思った矢先。

 

「・・・何騒いでるんスか?」

 

どくん、と心臓がなった。

 

開けっぱなしの部室のドアから、フィラの帽子をかぶった彼が・・・あらわれた。


せめて、顔をそらせばよかったのに。

 

・・・私と越前君は、ばっちり目が合ってしまった。

 

 

「「・・・・・・・・・・・」」

 

 

大きな瞳が、少し驚いた表情で私を見ている。

目をそらすことが、できない。

 

この出会いは、運命でもなんでもない。

逃げて逃げて、逃げ続けた私への罰だ。

 

そう信じて、疑わなかった。

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

ヒロインとリョーマ、初対面。

なんだかヒロインは、リョーマが苦手なよう・・・?