私と彼が出会って
ほんと
いろんなものを得られたと思うよ
第十八話
昔から、私は臆病な性格だった。
何をするにも勇気が無くて、自分はダメだと思い込む。
しょっちゅう他人と比べては、日々落ち込んでの繰り返し。
それでも楽しく学校生活を送ってこれたのは、何より大切な友達がいるから。
一番の親友はだけれど、クラスの女の子は皆大切な仲間達。
地に足がついて前に進めない私を、励まして、時には引っぱって助けてくれた。
だけど、どうしようもない私の弱さは、つもり積もってついには大好きなことにまで影響を及ぼし始めた。
好きなことをやるたびに、自分の限界に気づいていく。
このままやり続けて、限界という壁に行き着くのなら、もうやらない。
傷つきたくないから、嫌なことは知らんぷり。
私はそうやって、自分を守ってきた。
抗(あらが)おうともせず、越えようともせず。
ずっと、そうやって生きていくんだと思っていたのに。
どうして、彼は突き進むことが出来るんだろう。
どうして、遥か高みを目指すんだろう。
その強い自信と勇気は、いったいどうしたら得ることができるんだろう。
青空の下、ただひたすらボールを追う彼の姿は。
あの頃の私にとって、羨ましいとしか言いようがなかった。
「・・・・・懐かしいな・・・」
部屋に静かに響いた、私のひとり言。
起きかけの気だるい体を起こして、カーテンをあけた。
朝の光が、部屋を満たしていく。
ふと気付けば、リョーマ君とほとんど話さなくなってから、約二週間。
テニス部は見に行きづらくなっちゃったから、しばらく行ってない。
は時々行ってるみたいだけど・・・ね。
「ん〜・・・。久しぶりに、夢見たなぁ」
目覚める直前まで見ていた夢は、彼と出会った頃の夢。
テニスコートで鮮やかなプレーをする、リョーマ君の夢だった。
思わず、「懐かしいな」なんて言っちゃったけど。
よく考えると、彼と出会ってから二ヶ月くらいしか経ってないんだよね。
まだ少し眠いまぶたをこすって、伸びをする。
目覚まし時計は、八時をまわったところ。
今日は休日だから、もうちょっと遅くまで寝てようと思ったのに、意外と早く目が覚めちゃったな。
「・・・・いい天気」
しばらくぼんやりと外を眺めていたけれど、ふと思い立ち。
私はクローゼットに掛けてある、制服を手にとった。
スカートのプリーツについているシワを手でのばして。
玄関でローファーを履く。
バッグは・・・ちょっと悩んだけど、持っていかないことにした。
今日はお休みだから、授業を受けに行くわけじゃないもんね。
ポケットに、少しの小銭とハンカチ・ティッシュを入れただけ。
「行ってきまーす!」
一歩外にでると、夏を感じさせるような日差しが肌を照りつける。
それなのに、風はひどく爽やかで。
初めて彼に出会ったときも、こんな爽やかな風が吹いていたんだっけ。
休日の朝って、なんとなく好き。
平日と違って時間がゆったり流れていて、道行く人の表情も穏やか。
平和って感じだよね。
公園のそばを通りかかると、犬の散歩をする人がチラホラ。
それを横目で見て、そのまま通り過ぎようとしたら。
「さん?」
「え?」
聞き覚えのある声が聞こえ、思わず振り向くと。
「ああ、やっぱり」
色素の薄い髪。
カメラを手に持ち、穏やかな微笑みを浮かべている。
「・・・不二先輩・・・・」
「おはよう。制服着て・・・学校に行くの?」
「あ、はい。不二先輩は、写真を撮ってるんですか?」
「うん、僕の趣味でね」
そう言って、カメラを掲げて見せる。
がいれば、きっとキャーキャー言うだろうなぁ。
「なんだか久しぶりだね」
「・・・そう、ですね」
部活を見に行っていた頃は、時々お話しすることもあったけれど。
リョーマ君と話さなくなってからは、話す機会はめっきり減っていた。
「今日は、テニス部はお休みなんですか?」
「ううん。今日は午後からなんだ」
「そうなんですか・・・」
「最近、見に来ないね。テニス」
ドキッとする。
不二先輩が、じっと私の目を見ていて。
顔は穏やかだけど、すべてを知っているような気がした。
「・・・行きたいんですけど、行けないんです」
この先輩に、嘘は言えない。
なんだか、バレたら後が怖いと思って。
「・・・さんも苦しいかもしれない・・・でも、苦しんでいるのは君だけじゃないんだ」
「・・・え?」
「きっと知らない感情だから・・・その先にあるものが分からないから、無意識に避けてしまうのかもね」
不二先輩がポツリとつぶやく。
風が緩やかに、私たちの間を通り抜けていった。
「だけど、彼がその壁を乗り越えたとき・・・きっと、今まで以上に強い心を持つんじゃないかな」
“彼”・・・?
不二先輩の言っていることが分かりそうで、でも分からない。
思わず首をかしげた。
それを見て、クスリと笑いがもれる。
「ごめんね、引き止めちゃって。学校行くんだよね」
「あ・・・い、いえ・・・」
急に話題が変わったことに拍子抜けしながらも、自分の用事を思い出す。
って言っても、目的があるわけじゃないんだけど・・・。
腕時計を見ると、九時半をまわったところだ。
「それじゃあね、さん」
「あ、はい」
手を振りながら、不二先輩はそのまま公園の中に入っていった。
それをぼんやりと見送って、私も再び足を進める。
“壁を乗り越えたら、今まで以上に強くなる”
なんだか頭を離れない、不二先輩の言葉。
きっとリョーマ君は、数え切れないほどの壁を乗り越えてきたんだろうな。
だからこそ、あんなに強くたくましい心を持っているんだ。
そんなリョーマ君が、乗り越えられない壁って。
そんなの、あるのかな・・・。
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不二先輩は隠れキーパーソンです(笑)
次はリョーマ視点。 視点がコロコロ変わってごめんなさい;