わけも分からずイラつく心
少し前まで 笑顔が見たいと思っていた
あの俺は どこへ行った?
第十七話
廊下で会っても、俺は目をそらしてあいさつもしない。
昼休みは、教室で弁当を食べている。
誘いに来た桃先輩には、テキトーに言い訳をして。
自分でも呆れるぐらい、俺は先輩を避け続けていた。
俺は何にイラついている?
先輩が、テニス見にくるのに遅れたこと?
俺の知らない男と話してたこと?
・・・・・それって、イラつくほどの理由じゃない
じゃあ、なんで?・・・・
「越前、あとで話がある。着替えたら部室で待っていろ」
先輩と話さなくなってから二週間。
先輩はテニス部にほとんど顔をださなくなって、俺はここ最近、常に不機嫌だ。
まぁ、別に見に来てって約束してるわけじゃないし。
口もきいてないから、来ないのは当たり前かもしんないんだけど。
あいかわらず好調とは言えない部活が終わり、部長に呼び出しを食らった。
荒井先輩にからかわれながらも、俺は着替えて一人部室に残っていた。
さっさと帰って風呂に入りたい、とぼんやり思っていたら。
部室のドアを開け、部長と・・・・・不二先輩が入ってきた。
瞬間、何を言われるのか予想がついた。
ゆっくりと、不二先輩が口を開く。
「越前・・・・あの子と何かあったのかい?」
・・・・・やっぱりね。
部長が何も言わないで俺をじっと見ている。
少し下を向いて、「あの子って誰っスか」とつぶやいた。
「さんだよ。最近よく一緒に帰ってたじゃない」
「・・・・・・・・別に何もないっスよ」
たぶん不二先輩は、すべてを見透かしている気がする。
部長は・・・先輩のことまでは気付いてないだろうな。
そーゆーの、疎そうだし。
「何もないだなんて・・・・・・いつもの越前じゃないよ、あのプレーは」
「・・・・・・・・・・」
「がむしゃらに打っているようだぞ・・・テニスはメンタル面が大きく左右するんだ」
分かっていると思うが、と部長が静かに言う。
「・・・・・分かってますよ・・・・・」
分かってる、そんなこと。
俺だって、テニスに集中してる。
集中してるんだ。
だけど・・・・・・・
「・・・・・・・っ」
何も言わない俺に、不二先輩が小さく溜息を吐いた。
なんだか猛烈に、自分に嫌気が差す。
「越前にとって・・・・さんは、本当に関係ない人なのかな?」
「・・・・・・・・」
二週間前のことがフラッシュバックする。
部室の扉を開いた俺。
そこにたたずむ先輩に、俺はただ一言、言葉を投げつけた。
そのときの表情は、見てないから分からないけど。
たぶん、傷つけたはずだ。
「自分に関係ない人間なんていないぞ・・・越前」
「手塚の言うとおりだよ」
「ほんとーに、関係ないっスから」
これ以上何か言われるのがうっとうしくて、俺はテニスバッグを肩にかけて部室を出ようとする。
それを、不二先輩がさえぎった。
「・・・どいてください」
「逃げるのかい?」
間髪入れずに言われて。
俺は思わず立ち止まる。
「意地を張って得るものは、その場限りの満足感・・・あとには何も残らないんだ」
分かってる。
ただの意地だってことぐらい。
認めるのが、イヤなんだ。
「強がるな、とは言わないよ・・・越前」
俺が、先輩のことを?
認めたくない。
「君に失う覚悟があるなら・・・ね」
テニスだけの俺に、芽生えた初めての感情。
こんな感情は知らない。
いらない。
「・・・不二先輩、いい加減どいてください・・・」
「・・・・・越前・・・・」
うつむく俺に、不二先輩は小さく名前を呼んで。
そして、ゆっくりとドアの前から離れた。
重い足取りで扉を開けると同時に、今まで黙っていた部長が声をかけた。
「越前、明日の練習は午後からだ」
分かってるっス
普段の俺ならこう答えただろう。
だけど今日は、手塚部長にあいさつもしないで、不二先輩にも何も言わずに部室を出る。
嫌味なくらい綺麗な夕日を見ながら、俺は家路へと向かった。
「ほあら〜ほあら〜!」
「・・・ただいま、カルピン」
帰宅すると、玄関で行儀良く座ったカルピンが出迎えてくれた。
仁王立ちで立つ親父なんかより、全然嬉しい。
だけど、今日はカルピンと遊ぶ気分になれない。
部屋に入ってテニスバッグやらを片付けた後、俺はすぐ風呂に入った。
風呂に入って、飯食って。
・・・宿題は、後回し。
なんだか今日はいつも以上に疲れた気がして、俺はベッドに倒れこむように寝転んだ。
寝るつもりは無いけど、目を閉じる。
同時に、頭にさまざまなことが浮かんできた。
初めて出会ったのは、テニスコート。
先輩、変に俺のこと意識して見てたんだよね、他の女子と違った意味でさ。
それが、逆に印象に残ったんだ。
初めて言葉を交わした日に、一緒に帰った・・・二人っきりじゃなかったけど。
屋上で弁当食べて、先輩の胸のうちを知って・・・。
泣き顔も見た。
俺が誘った遊園地でも、先輩泣いたんだっけ。
笑顔が見たいって思ったのに、結局泣かせちゃったんだよな・・・。
でも、それから距離が近づいて。
二人きりで帰るようになったのも、この頃からだ。
その矢先の出来事。
距離はまた遠くなった。
原因は、まぎれもなく俺自身。
ただ俺が避けてるだけ。
先輩が、俺の知らない男と楽しそうに話しているのを見たときから。
どうして俺は、この感情を認めたくないんだ?
「・・・・・ただの意地だよね、ほんと・・・・・・・・・」
俺には、テニスしかないから。
テニスしか、なかったから。
「・・・・・・・・・、先輩・・・・・・・」
思わずつぶやいた言葉と同時に、急激に襲ってきた眠気。
落ちてくるまぶたが止められない。
意識が闇に溶けて。
俺はその日、夢を見た。
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私の中で、リョーマは意地っ張りであまのじゃく。
真っすぐ自分の道を突き進む人だからこそ、素直に横道に反れることができない・・・そんな感じ。
次はヒロインメインです。