先輩が  どこで何をしていようが

そんなの  俺には関係ない

 

 

 

・・・はずなんだ

 

 

 

 

  第十五話

 

 

 

 

教室掃除が終わって、いつもと同じように部活へ向かう途中。

急ぎ足の先輩を見た。



いつも隣にいる先輩がいなかったから。

少し気になって、二年八組のある廊下まで行くと。

 

先輩は、俺の知らない男と一緒にいて。



二人してプリントを持って、そのプリントで背中なんか押して。



二人して笑いあって。

 

 

一瞬、心臓がドクンと大きな音をたてた。

 

 

冷静になって考えれば、ただ単に仲のいいクラスメイトとして見えるのに。

そんなこと考える余裕もなくて、俺は声もかけずにその場を離れた。

 

 

 

わけも分からず、心がイラつく。



何にイラついているかなんて、そんなの・・・・・

 

 

・・・・・・・・テニス見に来るって言ってたくせに、来るつもりなんかないじゃん、と思ったから。



ほんと、それだけだし。

 

 

他に理由なんて、ない。

 

 

 

 

 

 

 

「ほれほれ、ちんたらしてんじゃないよ〜!!」

 

青空の下で、今日もテニス部の練習は行われる。

掃除が理由で少し遅れてきた俺は、グラウンドを走らされることもなく、軽く柔軟をしていた。


目線を少しずらすと、ちょうど先輩が小走りでやってきた。

先輩に何やら謝って、息を整えて顔をあげる。




周りにいるうるさい女子のように騒ぐこともなく、のんびりと見物を始めた。

 

「越前、打とうぜ!」

「っス」

 

桃先輩に誘われて、コートへ移動する。

右手でボールを何回か地面に打ちつけ、空へと高く投げて。

 

ラケットを振り下ろした。

 

 

 

軽く打ち合う程度のはずが、ラリーが続くとお互い一歩も譲れない状態になる。

 

桃先輩のダンクスマッシュ、打たれる前に先に攻めてやる。

 

そう思い、ドロップショットを打つ。



ボールはネットにかかって桃先輩のコートへこぼれた。


桃先輩の跳躍力なら取れるかと思ったけど。

 

 

「・・・・?」

 

 

だけど、ボールを取りに行こうともせず、ラケットを肩に担ぎ、困惑した顔で俺を見ている。

 

「・・・なんスか?」

「越前、おまえ・・・・なんかあったのか?」

「・・・・・・は?」

 

なに言ってんスか、桃先輩。

 

「別に・・・何もないっスけど・・・・」

「ほんとかよ?なんか今日の打ち方、いつもの越前じゃねーよ」

 

そう言われ、ラケットを握り締めている左手を見る。

少し手が痛い。

気付かないうちに、かなり強くラケットを握っていたらしい。

 

「がむしゃらに打ったって感じだったぜ」

「・・・・・・・」

 

 

ふと、視線を感じた。

 

 

見ると、先輩が俺を心配そうに見ていて。

 

・・・目が合った。

 

 

いつもなら、ここで少し笑うくらいはするんだけど。


口を緩ませることもなく、頭を下げることもなく。

 

 

俺は目をそらした。

 

 

「ほんとに何もないっス。桃先輩、続きいきますよ」

 

今度はラケットを右に持ち替え、俺は再び、ボールを空へと投げる。

 

 

少し汚れた黄色いテニスボールが、真っ青な空へ吸い込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・やっぱ越前、なんかあっただろ?」

「・・・・・・」

 

桃先輩だけじゃなく、不二先輩までもが俺を心配そうに見ている。





今日の部活は、今までで最低の出来。



最低の出来なんて一度もなかったのに。

ボールが打てないとか、そんなんじゃない。

 

もっと、精神的なもの。

 

自分の意識がテニスじゃなく、他に向いてることに俺自身もちろん気付いていた。

 

「なんもないっス」

 

部活中に何度も言われたこの言葉。

今さら答えるのも面倒で、棒読みで返す。

 

脳裏に先輩の姿が浮かんだ。

 

むりやり考えないようにして、さっさと上着をはおる。

 

 

「越前・・・ニケツは?」

「・・・今日はいいっス」

 

また質問攻めされるだろーし。

 

「お先失礼しまーす」

 

誰に言うわけでもなく、視線を感じながら俺は部室のドアを開けた。

 

瞬間、栗色の髪が視界に入って。

 

 

 

 

「・・・リョーマ君・・・」

 

「・・・・・・っ」

 

 

 

 

一人で来た、先輩。

そういえば、先輩は部活が終わる直前で先に帰ったのを見た。



・・・ってことは、あれからずっと先輩は一人でいたんだ。

 

誰か待ってたわけ?と一瞬思ったけど。

・・・別に、そんなのどーでもいい。

 

 

先輩は、少し驚いた顔をしている。

ちょうど、ドアを開けようとしたところだったのか。

心配そうな先輩の声。

 

・・・目をそらしたことについて何か言われるかと思ったけど、そうでもなく。

 

「・・・部活、お疲れさまっ」

「・・・・・」

 

何も言わない俺に、先輩は少し動揺してる。

 

「えっと・・・今日のリョーマ君、なんかいつもと違うプレーだったね。・・・何かあったの?」

 

そう言って、「部外者が口出しすることじゃないかもしんないけど」と、バツが悪そうに笑う。



・・・まさかそれを聞くために俺を待ってたのかは知らないけど、先輩なりの優しさなんだろう。




だけど。

 


俺がテニスに集中できなかった理由は・・・・・・・

 

 

 

 

 

 

「あんたにはカンケーないよ」

 

 

 

 

 

 

俺は先輩の顔を見ずに、部室を出た。

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

リョーマが「テニスに集中できない」というのは、

あからさまに集中できていない、というわけではありません。


心に何か引っかかるものがあり、それがテニスに影響している、ということです。

打ち合った桃、ヒロイン、そして何かと鋭い不二しか気付いていません。


それくらい、本当に些細な影響と考えていただけると幸いです。



次はヒロイン視点です。