弱い私も  醜い私も

仮面をかぶっても  それは“私”

 

世界でただ一人の私

 

弱点を克服できないのなら

どうしたら出来るのか考えればいい   ゆっくり  焦らずに

 

 

 

 

  第十三話

 

 

 

 

冷たく降りしきる雨の遊園地で、リョーマ君の腕の中で涙を流してから。

以前よりも身近に感じる、リョーマ君の存在。



お昼はたいてい一緒に食べるし(桃ちゃんともいるよ)。

放課後のテニス部はほとんど毎日見に行ってるし(部長さんにも顔覚えられちゃったんだよね)。

帰りはなぜか、リョーマ君と二人きりになる事がある(最近桃ちゃんの自転車に乗らないんだよね、リョーマ君)。



別にどっちかが言い出したわけもなく。

自然とそうなった、最近。



もう、あんな羨望(せんぼう)の眼差しで見る私はどこにもいない。

今思い返せば、リョーマ君に対するあの醜い感情は、いったい何処にいったんだろう。




雨に流されたのか。

涙で流したのか。


 

それとも



 

違う感情に変化したのか

 

 

 

 

 

 

「うーん、いい天気だね〜!」

「うんっ。風が気持ちい〜」

 

水色の空に、木々の鮮やかな緑。

窓から入ってくる、初夏の風が頬をくすぐる。



ただいま、三時間目の授業、美術の時間です。

今日は写生。

どこでもいいから、学校の風景を描いて来い、だって。



なので、二年八組の教室の窓から、校庭をのぞきながら描いてます。

ここならイスに座って描けるから楽なんだよね。

 

 

細い筆を握る。

約二年ぶりの握り心地。

高鳴る胸を感じて、絵に対する思いを再確認。

 

 

「ん〜・・・なーんか上手く描けね〜なぁ・・・描けね〜よ・・・」

 

桃ちゃんの独り言。

 

、この絵の具借りるね」

「うん」

 

意外とマジメな



二人とも、私が二年ぶりに出席することに関して、何も言わない。

気を遣ってくれてるのか、その方がありがたかった。



美術の先生も、かなり久しぶりに授業に出た私を見て何も言わなかった。

ただ、授業内容を変更して私の好きな写生にしてくれたのには、もちろん気付いたよ。

 

青い絵の具をパレットに出す。

白の絵の具もちょっと加えて、綺麗な水色へと変える。

 

窓から見える広い校庭では、体育の授業をしている一年生。

左腕にリストバンドをつけたリョーマ君と目が合う。



桃ちゃん達に気づかれないように、小さな笑みをくれた。

 

「あ、越前リョーマ君だ」

 

早々と描き終わっていたが、水入れを洗って席に戻ってきた。

校庭で長距離走をやっているたくさんの一年の中から、リョーマ君を見つけるの視力は2.0だ。

絵の具をしまいながら、桃ちゃんが窓から身を乗り出し、リョーマ君に気付かせようとする。

 

「桃ちゃん、落ちないでね」

「おうっ。・・・・・越前のやつ全然気付かねーな」

 

桃ちゃんがつまらなそうに体勢を元に戻す。

風を切って走るリョーマ君の姿は、とてもかっこよかった。



私もようやく描き終わり、片づけを始める。

 

 

ゆっくりと、時間をかけて出来上がった絵。



もう大丈夫。

評価なんて気にしない。


描きたいものを描いて、楽しければそれでいい。


押しつぶされそうな心は、もうどこにもない。




少しは成長したかな、私。




 

校庭を矢のように駆け抜けるリョーマ君を見つめる。



すべては、彼のおかげ。

彼が、私の弱い心を救ってくれた。

何かお礼をしたいな。

 

窓に寄りかかって三人でぼんやりと外を見ながら、私は二人に聞いてみることにした。

三時間目の授業が終わるまで、あと十分ちょっと。


ん〜・・・なんて言おう。

 

 

「ね、リョーマ君って何が好きかな?」

 

桃ちゃんが首をかしげた。

 

「何ってなんだよ? 食いもんか?」

「趣味ってこと?」

 

・・・質問が悪いよね、やっぱ。

 

「そうじゃなくて・・・え〜っと・・・」

「越前リョーマ君の好きなものはテニスなんじゃない?」

「うーん、そうなんだけど、好きなスポーツじゃなくって・・・」

 

うまく伝えられない。


かといってお礼に何をするべきかってのも言えないんだよね。

話がややこしくなっちゃうし、うっかり部活さぼったことを言っちゃうかもしんない。

 


前で走る男の子をどんどん抜いて、リョーマ君は一位におどりでる。

足速いなぁ。


どうしたら、生意気ルーキー君は喜んでくれるんだろう。

 

「本人に聞いてみたら?」

 

桃ちゃんもうんうん、と頷いている。

そっか。

そういえばそうだよね。

 

「うん、聞いてみる」

 

 

夏の香りがする風が、私の髪をなびかせた。

 

 

 

 

 

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ヒロイン、心を成長させました。

続きはリョーマ視点から始まります。