流れる時間
近づく距離
変化する心
変わらないのは 私とあなたの関係
第十話
「リョーマ君、あれ乗ろう!」
日曜日だから、混雑は覚悟していたんだけど。
意外にも、そんなに混んでない。
久しぶりに来た遊園地に、私は目移りしまくり。
右を見ても左を見ても、魅力的なアトラクション達が私を誘っているように見えてならない!
だけどやっぱり、遊園地の目玉といえば!
「・・・いきなりジェットコースター?」
「うん♪」
絶叫系大好きなんだもん。
お化け屋敷は嫌いだけどね。
「リョーマ君はジェットコースター嫌い?」
「別に平気」
「じゃあ行こう!早く早く〜」
リョーマ君の服の袖を引っぱって先導。
ちょっと混んでて、ただいま三十分待ち。
だけど、おしゃべりしてればあっという間の時間だよね。
今ではもう、はっきり自覚している。
あんなに苦手だったリョーマ君。
あの昼休みを境に、普通にお話できるようになった。
彼に対する羨望(せんぼう)はやっぱり消えないし、自分を情けなく思う気持ちはなくならないけれど。
それでも、ちゃんと目を見て話せるようになった。
時間の流れと、涙の魔法のおかげかな?
ジェットコースターで久々に叫んで、お次は3Dアトラクション。
黒いプラスチックのような四角い眼鏡をかけてイスに座る。
お互い顔を見合わせて、乾先輩みたい、なんて笑い合う。
画面の動きに合わせて、イスが上下左右に揺れ動く。
隣に座るリョーマ君も楽しそう。
次に乗ったのは、リョーマ君リクエストのゴーカート。
どうやら人気があるらしく、これも三十分待ち。
「リョーマ君、ゴーカート得意なの?」
「別に得意じゃないけど・・・先輩よりはうまいよ」
むっ。
「・・・言うね」
「勝負する?」
ニヤッと挑発的な笑みを浮かべるリョーマ君。
ちょっと負けず嫌いな私に、選択権は一つだけ。
AM11:40。
レース、スタート!
「ちょっ、ちょっと待ってー!」
勢いよく乗り込んだのはいいけれど。
実はめったに乗らないゴーカート。
思うように真っすぐ進まなくて、あっという間に隣の道を走るリョーマ君に抜かされる。
「待ったら勝負にならないっしょ」
「そうだけどっ!でも待って!」
「じゃあ降参する?」
うっ。
それはかなり悔しい・・・。
「じゃ、続行ってことで」
リョーマ君がスピードを上げた。
「せめてゴール手前でスピードあげて!」
「先輩がスピードあげた方がいいんじゃない?後ろ追いつかれるよ」
「え!?」
あせって後ろを振り向くと、私の赤い車の三メートル後ろに、黄色い車が見えた。
今の私のペースじゃ、絶対に追いつかれる!
「やだっ、どうしようっ・・・」
「もっとちゃんと前見て」
「え?」
「先輩、運転してる間ちらちら周りの景色見すぎ。それじゃ気が散っちゃうじゃん」
「うぅっ・・・」
だって、コースを囲む木々の間からいろいろなアトラクションが見えるんだもん。
思わず目移りしちゃって・・・。
とりあえず、後輩君の言うとおりに。
すると。
「・・・・・・・・」
「ふーん、うまいじゃん」
フッと笑い、リョーマ君は私を見る。
敵に、こんなに初歩的なことをアドバイスされるとは・・・。
後方にいた黄色の車には追いつかれずにすんだけど。
結局、リョーマ君はゴール手前でスピードを上げ、私の負け。
だけど、ちゃんと気付いてたよ。
なんだかんだ言って、ゴールするまで私の車に合わせて走っていたことに。
車から降りて、出口へ向かう途中。
私は彼に聞こえないように、小さく「ありがと」とつぶやいた。
「腹減った」
出口からでると、リョーマ君は近くのベンチに腰を下ろしながらそう言った。
言われてみると、確かにお腹が物足りない。
気付けば、もう少しでぴったり十二時。
朝早かったから、お昼の時間にちょうどいい。
「じゃあお昼にしよっか」
「ん。何食べる?」
「ん〜何があるのかな・・・」
小さなバッグに入れておいた園内のパンフレットを見ながら、リョーマ君とおいしそうなお店を物色。
二人ともお腹が空いているからか、なんでもおいしそうに見えてしまって、なかなか決まらない。
「あ、このパスタもおいしそう!」
「和食とかないの?」
「・・・和風パスタならあるみたいだよ」
「じゃ、そこでいいよ」
そう言って、リョーマ君はお店の場所を地図で確認してスタスタ歩き出す。
「え、和食じゃなくていいの?好きなんでしょ?探せばあると思うよー」
「いーよ。そこ結構うまそうだし」
早く、というように私を振り返り、歩を進めるリョーマ君。
優しい風に、スカートをひるがえしながら。
私は慌てて彼のあとを追った。
空はすごく重そうな鉛色なのに。
こんなにも優しい風が吹くんだね。
「おいしーい!」
たどり着いたパスタ屋さんは大正解。
具がたっぷり入ってて味もいいのに、値段は普通のお店と同じ。
遊園地の飲食店もあなどれないねっ。
リョーマ君は、さすが男の子だけあって、食べるのが私より断然早い。
・・・私が遅すぎるのかな??
「ねぇ、先輩の少しちょーだい」
「え?」
思わずフォークがとまる。
「俺もそれ、頼んでみたかったんだよね」
リョーマ君はフォークを私のお皿に近づけ、器用にパスタをからめる。
クリームソースがからまったパスタが、リョーマ君の口に運ばれた。
少し、ドキッとする。
だって、これって・・・間接キス?
でも、同じフォーク使ってるわけじゃないから違うよね。
動揺を振りはらうように、私もリョーマ君のパスタを一口もらう。
濃厚なクリームソースのあとだからか、サッパリした醤油ベースの味がひどくおいしい。
「ここにきて正解だったね、リョーマ君」
「遊園地に来なきゃ食べられないってのが欠点だね」
その言葉に、思わず吹きだしそうになって。
私は慌てて水を飲む。
ふと周りを見回すと。
家族連れにまぎれて、いくつかのカップルの姿が目に入る。
周りの人たちから、私とリョーマ君はどんな風に見られてるのかな。
そんな考えが、一瞬頭をよぎる。
・・・そんなこと、どーでもいいことなのにね。
おいしいものをお腹いっぱい食べて、大満足。
私とリョーマ君は次に乗るアトラクションを決めるため、再びベンチに座っていた。
にぎやかな遊園地の中心から、少し外れた小さなベンチ。
本当はパスタ屋さんで決めたかったんだけど、混んできたから長居は出来なかったんだよね。
「ね、次これ乗りたいな」
「何これ?・・・船?」
「うん。建物の中を小さい船に乗って移動するの」
「ふーん。・・・って、思いっきり逆方向じゃん」
「・・・あ、ほんとだ」
「ま、腹ごしらえってことで。時間もあるし」
リョーマ君が立ち上がる。
なんだか、今日はリョーマ君にいろいろワガママを聞いてもらってるなぁ。
この船の乗り物に乗り終わったら、次はリョーマ君が乗りたいのを聞いてみよう。
そう思って私も立ち上がって歩き出す。
その瞬間、鼻先に冷たい感触。
思わず立ち止まると、リョーマ君も立ち止まって空を見上げていて。
私もつられるように、空を見上げた。
パラパラと水滴が肌にあたる。
「雨だ・・・」
朝から天気悪かったけど、まさかほんとに降るなんて・・・。
なんて油断していたら。
「!!?」
いきなり、ザーザー。
大粒の雨が地面を激しく打っている。
周りにいた家族連れも、突然の雨にあたふたとするばかりで。
「きゃ!?」
突然視界が真っ暗になる。
『何か』が頭に深くかぶせられていて。
その『何か』を理解できず混乱している私の右手を引っぱって、リョーマ君が駆け出した。
まるで雑音のような雨音。
冷たい大粒の水滴が肌を貫く。
走り続ける私たちに降り注ぐ、たくさんの雨粒は。
右手の熱を奪うことが出来ずにいた。
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普通のお友達のようになれたかな??
ヒロインの心は、少し変化してる・・・はず。