傷つきたくないから

逃げて 逃げて

ひたすら逃げる

私の日常は そんな毎日

 

 

 

 

  第一話

 

 

 

 

部員達のかけ声が青空に響く。

ラケットを振る音と、ボールを打つ音。

合間に聞こえるのは、テニス部員の声と、顧問の激。

 

そして。

 

「きゃー!不二せんぱーい!!」

「手塚くーん!頑張ってー!!」

 

・・・女の子達の、黄色い声援。

 

「・・・・・・・」

 

男子テニス部は、女の子にものすごく人気が高い。

そんな噂を、何度か耳にしたことがあったけど。

 

「菊丸先輩!ファイトー!!」

「きゃっ、こっち見たぁ!!」

 

・・・正直、ちょっとひいてしまう。

確かに、皆一生懸命にテニスをしていて、かっこいいとは思うけど。

 

っ。あの眼鏡かけててクールな人が部長の手塚先輩ね。

 で、手塚先輩と話している超美形が不二先輩。それであっちの・・・」

 

は私に実況中継中。

超、がすごく強調されてた気がするけど。

とりあえず、うんうん、と黙って聞く。

 

「・・・で、黒縁の四角い眼鏡をかけてる人は乾先輩。

 いっつもノートを持ってて、いろんな人のデータをそこに書き込んでるんだって」

 

・・・、なんでそんなに詳しいんだろう。

 

頬を赤く染めて、は真剣にコートを見ている。

テニス部の中に、好きな人でもいるのかな?

 

私にはまだ、誰かを好きになるっていう感覚がよく分からない。

まだ中学二年生だし、あせることないよね。

 

!不二先輩が打つよ〜!」

 

袖を引っぱられて、私は目線をからコートにうつす。

本来なら、私は不二先輩を見ているはずだった。

 

 

 

だけどこの時。

 

 

 

不二先輩が、テニスボールを高くなげる瞬間。

帽子を深くかぶった、隣のコートにいる男の子がふと視界に入った。

うつむいていて顔が良く見えないせいか、私はそのままその子を見続けていて。

黄色い歓声が響いたと同時に、その男の子は顔をあげた。

 

 

 

 

鋭い大きな瞳。

 

 

 

 

目が合った気がして、私は慌てて視線をそらす。

 

、今の見た!?超かっこいいよ不二先輩〜!」

「え?・・・あ、うん」

 

・・・見ていませんでした。

 

もう一度、そっと隣のコートに目を向ける。

さっきの男の子はネット越しに、手塚先輩と何か話していた。

 

よく見ると、意外と背が低い。

私と同じくらいかな。

一年生・・・?でもレギュラージャージを着ているから、二年か三年かもしれない。

 

だけど。

あんなに綺麗な瞳を、私は見かけたことがない。

 

「あ、、さっきの続きね」

「へ?」

「ほら、あそこにいるの、桃城くん。テニス部なんだよ。しかもレギュラー!」

 

の目線を追うと、そこには黒髪をツンツンたて、レギュラージャージを着ている桃城くんの姿。

二年になって初めて同じクラスになったけど、あんまり話したことはない。

そんなことをぼんやり思っていると、は“さっきの続き”を話しだした。

 

「桃城くんと話しているのが菊丸先輩。で、菊丸先輩の斜め後ろにいる人が二年七組の海堂くん。

 バンダナ巻いてる人ね。

 んで、むこうにいるのが河村先輩。あっちにいるのが大石先輩」

 

・・・覚えられないよ、

 

「でさ、あの小さい子・・・分かる?今打ってる子。帽子かぶってる・・・」

 

さっきまで、ネット越しに手塚先輩となにか話していた男の子。

いつの間にかコートに入って、赤いラケットを振っている。

 

黒い髪を風になびかせて。

 

「なんか一年のスーパールーキーでね」

 

ひたすらボールを追い続ける。

 

「もう、すでにレギュラー入りしてるんだって。天才だよね」

 

気持ちのいい音をコートに響かせて。

 

「確か、越前リョーマって言う名前・・・」

「・・・越前、りょうま・・・」

「うん。あ、リョーマって、カタカナね。しかも伸ばすの。リョーって」

 

「・・・・・越前、リョーマ・・・」

 

 

夢中にボールを追う、生き生きとした姿。

 

一年でレギュラー・・・きっと、彼は才能に恵まれた人。

・・・うらやましい。

 

 

 

 

 

 

 

結局、テニス部員がコートからいなくなるまで、私たちはずっと“見学”をしていた。

は、手塚部長が素敵とか、不二先輩が一番とか言ってたけど。

私はそれを、どこか上の空で聞いていた。

 

頭の片隅で、越前リョーマのテニスをする姿が焼きついて離れない。

今考えると、私は相当うらやんだ目で彼を見ていたに違いない。

一年でレギュラー入り。

きっと彼は、将来プロになるのだろう。

 

なんだか無性に、自分が情けなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

誰もいないテニスコート。

部員達が汗を流したコートは、今は夕陽でオレンジ色に染まっている。

そのコートの前で、じっと立っている少年。

 

越前リョーマだ。

 

何か考え事をしている。

 

「おい、越前!」

 

振り返ると、桃城がテニスバッグを肩にかけてこちらを見ている。

 

「何やってんだよ、帰るぞー」

「・・・ッス」

 

腹減ったー、と叫ぶ桃城の後ろで。

リョーマは再び、テニスコートに視線を向ける。

黄色い声を出し、目をハートにして俺達を見る女子の固まりの中に。

たった一人だけ、違う目線で俺達を見ている子がいた。

 

(・・・いや、違う)

 

そいつが見ていたのは、「俺達」じゃない。

 

俺だ。

 

一回だけ、目が合った。

すぐそらされてしまったけど。

別に自惚れなんかじゃない。

 

あんなに、驚きとうらやんだ目で見られたのは初めてだ。

どうしてあんな目で自分を見るのかは分からないけれど。

 

それでも、ひどく印象に残っていた。

 

 

 


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ヒロインとリョーマ、直接的ではないけど接触しました。

なんだかヒロイン、意味深デス。