あなたに伝えきれないことがある
ありがとう
ごめんね
大好き・・・
For you! 6
いつもの長い授業時間が、今日は飛びっきり長く感じられる。
国語の先生がスラスラと教科書を読む時間でさえ、には何時間も経ったように思えた。
特に長く感じられたのは、授業と授業の合間の中休みだ。
自分がとお喋りをしている間に、リョーマは誰か知らない女の子に告白されているかもしれない。
そう思うと気が気ではなかった。
現に同じクラスの桃城が、すでに二回女の子に呼び出されているのだ。
桃城はどちらも断ったらしいが、チョコだけはしっかり受け取っている。
嬉しそうに包みを開いてチョコを頬張るのを見ていると、リョーマも今頃こんな顔をしているのかと考えてしまう。
マイナス思考に陥っているに、と桃城はやれやれと溜息を吐いた。
「!余計な考えは捨てなさい!」
「あいつが好きなのは間違いなくなんだからよ、んな心配することねーって!」
チョコチップクッキーを口いっぱいに頬張り、せわしなくモグモグと食べる桃城。
うん、と弱々しく微笑んで、机の横に掛けてある紙袋をは不安そうに見つめた。
昼休みを告げるチャイムが鳴って、ようやく四時間目の授業が終わった。
は教科書やノートをしまい、トリュフの入っている紙袋、そしてお弁当を持って席から立ち上がった。
これから先が予想できなくて、まるで告白でもするような緊張感が襲う。
と桃城の声援を背中に受けて、急いで教室を出た。
途中すれ違った何人かの女の子が、を見てヒソヒソ話をするのを極力気にしないようにする。
通りがかった購買でパンを買っていた菊丸と不二は、いつも以上に優しく笑いかけてくれた。
少し勇気がわいてきて、は屋上への階段を駆け上がる。
屋上にはすでに先客がいるかもしれない、と思ったが、重い扉を開けるとリョーマが一人寝転んでいた。
すぐそばにはお弁当と思われる包みと、ファンタが置いてある。
プルタブは開かれ、持ち上げると中身は半分も残っていなのか、とても軽い。
人の気配を感じてか、リョーマは薄っすらと目を開けた。
「リョーマ君・・・」
「ん・・・来てたの?」
リョーマが大きなアクビをして起き上がる。
ファンタの残りを飲んでいると、が小さく呟いた。
「もしかして、四時間目サボったの?」
「・・・なんで?」
「ファンタ、ずいぶん減ってるし・・・屋上、誰もいないなんて珍しいよ」
昼休みは屋上争奪戦だ。
よほど早めに行かない限り、屋上を陣取ることはできない。
別に・・・とお決まりのセリフを吐くリョーマだが。
彼がこの言葉を口にすると、大半は肯定であることを意味する。
「四時間目の授業、ちょっとめんどくさかっただけだし」
言い訳のように付け足して、リョーマは弁当の包みを解いた。
少し緊張が解けたは嬉しそうに笑い、リョーマの隣に座って同じように弁当箱に手をかける。
紙袋は、リョーマの目に止まらないように反対側にこっそりと置いた。
二月だというのに、日差しが驚くほど優しく暖かい。
風が吹いてもほとんど寒さを感じることもなく、二人は気持ちよく弁当を食べ続けた。
ただ、今日はお互いに口数が少ない。
もリョーマも意識が違うことに向いていて、会話も何処かぎこちない。
弁当の中身が残り少なくなってくると、は脇に置いてある紙袋をチラチラと気にし始める。
ついに二人とも食事を終えて、完全な沈黙が訪れたとき。
耐えかねるように、が口を開いた。
「あの・・・リョーマ君・・・」
恐らく、リョーマはすでにたくさんのチョコをもらっているだろう。
自分のトリュフとは、比べ物にならないものをもらっているかもしれない。
という彼女がいても、それでもリョーマに想いを伝える人がいる。
結果が分かっていても、抑えきれない想いをぶつける人がいる。
それはたぶん、自分よりも遥かに勇気が必要なことだ。
だけど、彼を想う気持ちは、きっと誰にも負けないはず。
顔を真っ赤にさせ、は薄い水色の小さな紙袋を差し出した。
「これ・・・えっと、バレンタイン・・・」
震える両手で差し出したけれど、恥ずかしくなって目をつむり、下を向いてしまう。
リョーマにとっては、くだらないことかもしれない。
でも、これがの精一杯の勇気。
受け取って、と心の中で願っていたら、両手がふわりと軽くなった。
見ると、リョーマが紙袋を持ち上げていて。
「・・・サンキュ」
少しぶっきら棒だけど、表情はとても優しい。
大きな緊張から開放されて、はホッと息をついた。
それから、リョーマがリボンや包みを解くのを隣で眺める。
ガサ、と乾いた音をたて、小さな箱が顔を出した。
開くと、その中には五つのトリュフが転がっている。
そのうちの一つをつまんで、リョーマは口の中に放り込んだ。
舌の上で転がすように溶かしてみると、思ったよりも甘ったるくない。
視線を感じて振り向くと、が心配そうに眉を寄せている。
「・・・おいしい?」
料理の苦手なが、恐らく一生懸命作ったトリュフ。
自分のために。
少しの間をあけて、リョーマはゆっくり頷いた。
「ん・・・おいしい」
たった一言、感想を言っただけなのに。
本当に嬉しそうに、は笑った。
それは紛れもなく、心からの笑顔。
それから黙々とトリュフを食べるリョーマの横で、はジッと空を見上げていた。
他の子に何を貰ったのか、といったことも聞かない。
少しくらいヤキモチ妬いてもいいのに、と思っていたら、空から目線を外したが呟いた。
「そんな一気にチョコ食べたら・・・他のチョコ、食べれなくなっちゃうよ」
気にしてません、というような口調なのに、目は完全に泳いでいて。
リョーマは笑いをこらえて、の目をまっすぐに捉えた。
「俺は、これで十分」
二月十四日、女の子の笑顔と涙が弾ける決意の日。
苦手なことを頑張ったり、大きな緊張と戦ったり。
それもすべては、大好きな人のため。
理解し難かった女の子の心理も、今なら少しは分かる気がする。
恥ずかしそうに、だけど嬉しそうに笑うにリョーマはキスをした。
優しく広がるチョコの味。
太陽はますます暖かく、柔らかく二人を包んでくれた。
ねぇリョーマ君
大好きな気持ちが大きすぎて 伝えきれないことがたくさんあります
たくさんの「ありがとう」と 心からの「ごめんなさい」
溢れ出てくる「大好き」な気持ち・・・・
それはただの言葉なんかじゃなくて
リョーマ君と過ごした かけがえのない日々の証でもあるんだよ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
バレンタイン連載、なんとか完結しました。
あまり凝った内容ではなく、あえて普通のお話にしてみたつもり・・・です(笑)
以下、余談。
当サイトのリョーマは、彼女以外に貰ったチョコは一応持ち帰り、家族で食べるという裏設定があります。
まあ南次郎氏が食べる確立98%なんですがー(笑)
お読みになった方が、ほんのり暖かな気持ちになってくれましたら幸いですm(_ _)m