空の色も 風の音も
すべてが頭に入ってこない
それはまるで
告白するような 緊張感
For you! 5
耳元で鳴り響く目覚ましを、寝ぼけ眼で止める。
体を起こし、力の入らない手でカーテンを引いて、朝の光を部屋に入れた。
とたんに明るくなる部屋をふと見回すと、机の上にぽつんと置かれた物体が目に入る。
それが何かを理解したとたん、は急いでベッドから飛び出した。
今日は、待ちに待ったバレンタインデー。
ここ二週間、当日のことで頭がいっぱいだったにとって、この日がやってくるのはあっという間だった。
今年のバレンタインは平日のため、もちろん学校がある。
いつもより念入りに髪型を考え、どこか変なとこはないかと鏡の前で何度も確かめる。
鏡の中の自分は、見るからに緊張していて。
(リョーマ君、もし本気でいらないと思っていたらどうしよう・・・)
もう何度も感じてきた不安が、再び胸をよぎる。
机に置かれた包みの中には、昨日と一緒に作ったトリュフが入っている。
不器用ながらも、一生懸命作ったものだ。
綺麗にラッピングされた包みを紙袋に入れて、余計な気持ちを振りはらうようには頭を振った。
きっと、彼なら受け取ってくれる。
喜んでくれるかは分からないけど、それでも、自分の気持ちは理解してくれるはず。
心の不安を押し込むように、強くそう願って。
柔らかい朝の空気の中、は学校へ向かった。
八時十五分過ぎ。
は昇降口に入る前に、テニスコートをのぞいてみようと足を向けた。
ずっとリョーマのことを考えていたからなのか、なんとなく彼に会いたいと思ったのだ。
恐らく、今日も朝練をしているはず。
だがもちろん、テニス部の皆がいる前では恥ずかしくて渡せない。
少し見たら教室に入ろうと思っていたは、コートに来たことをすぐに後悔した。
テニスコートのギャラリーは、今日も相変わらず賑やかで。
いつも以上におしゃれな女の子達が、紙袋や包みを手に、頬を染めて楽しそうに騒いでいる。
菊丸や桃城は嬉しそうにニヤついているが、手塚は眉間のシワがいつもの三倍は増えていて。
朝練が終わったと同時に、テニス部は女性徒に囲まれるだろう。
とても綺麗な女の子が黄色い声でリョーマの名前を叫ぶのを聞いて、はたまらず駆け出した。
どうして自分は、こうなることを予想していなかったんだろう?
テニス部は、特にレギュラー陣は、みんなの憧れの的だ。
リョーマにチョコをあげるのは、自分一人ではない。
まして、チョコをあげるだけとは限らない。
誰かがリョーマに、告白するかもしれないのに。
「・・・・・っ!」
小走りで教室へと向かう。
今朝までチョコを受け取ってくれるかと悩んでいた自分が、なんだかとてもちっぽけに思えた。
「あ、!おっはよー!」
教室に入ると、が元気よく抱きついてきた。
が握り締める紙袋を見て満足そうに頷き、嬉々として席に座らせる。
そうして初めて、は誰かが自分を見ている視線に気付いた。
教室の出入り口で、一年生と思われる女の子の固まりがコソコソと話し合っている。
が机に置いた紙袋を見て、残念そうな、不機嫌そうな顔を浮かべていて。
リーダー格と思われる背の高い女の子が、を軽く睨みつけたあと廊下に戻って行った。
「気にしちゃだめよ、」
が励ますように、優しく肩を叩く。
は小さく頷き、机の横にあるフックに紙袋を大事そうに掛けた。
「いつ渡すのよ?」
「ん・・・できればお昼休みに渡したいな」
きっと、休み時間のたびにリョーマは呼び出されるだろう。
できれば、そんな場面には出会いたくない。
お昼休みなら、屋上かどこかで待ち合わせをしてゆっくり渡せる。
「じゃあ、早めに約束しておいた方がいいわよ。他の子に先越されないように」
「・・・そうだね」
ズキッ、と胸が痛む。
気持ちが晴れないまま、鞄から携帯をだしてリョーマにメールを送る。
そろそろ教室に戻ってくる頃だろう。
メールを送信した表示が出ると、心臓のスピードが一段階速くなった気がした。
一年二組の教室に入ったリョーマは、大きな溜息を吐いて席に座った。
朝練が終わって教室にたどり着くまでに、ずいぶんと沢山の女子に話しかけられた。
そのほとんどが、「今、ちょっといい?」や「話があるんだけど」という言葉ばっかりで。
最後の方は返事をするのも面倒で、目も合わさずにノーと答えた。
靴箱の中にはたくさんのカラフルな箱や包みが押し込まれていて、上履きを取るのに苦労したほど。
大石や不二は慣れているらしく、大きな袋を持参してその中に入れていて。
リョーマも一枚貰い、乱暴に詰め込んだ後部室に置いてきた。
席に座ってからも、ドアの近くからチラチラと降り注ぐ視線が鬱陶しい。
横目で見てみると、まったく知らない女生徒が数人で固まってリョーマを見ている。
なんだか見世物になった気分だ。
イラついて、寝てるフリでもしようとリョーマは腕の中に顔を埋めた。
その時、ズボンのポケットに入っている携帯が小刻みに震えて。
(・・・?)
直感でそう感じたリョーマは、起き上がって急いで携帯を開く。
受信箱を見ると、案の定届いたメールはからだった。
今日の昼休み、一緒にご飯を食べようという誘いのメールだが、少し控えめに誘っている気がする。
急いでいるのか、題名は珍しく無題だ。
「・・・・・・・」
もしや、とリョーマは思った。
自分の心がかすかに高ぶるのを感じる。
らしくないと思いながらも、浮ついた考えはなかなか頭から離れない。
せめてメールでは努めて冷静に、と思い、ゆっくりと文章をつくる。
“いいよ。屋上にいるから。”
いつもと変わらない受け応えで返信したあと、リョーマは携帯を握り締めたまま机に突っ伏した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
当日のお話、長くなったので分けます〜;