ほんの少し前まで、西の空には赤い夕日が浮かんでいた。

それは徐々に、家並みの間へ沈んでいって。



東の空に広がる、薄紫。



小さく輝く一番星を見つけて、は無意識のうちに微笑んだ。

 

 

  14.夕闇の帰り道

 

 

薄暗い闇の中に見えるテニスコートは、しんと静まり返っている。

先ほどまで汗を流し、ボールを追いかけていた彼らは、今は部室で着替え中だ。


男子テニス部の部室から少し離れた場所で、はリョーマが出てくるのを待っていた。

部活が終わった後でも、皆の楽しそうな話し声がよく聞こえてくる。

誰かが何か冗談を言ったのか、桃城の笑い声が一際大きくなった。



次いで聞こえてきた会話に、はゆっくり歩き出す。

 

「お、越前お疲れっ」


「じゃーな〜おちび!」

 

 

リョーマの返事は聞こえないが、きっとドアを開けて出てくるところだろう。

さっきまで部活をしている姿を見ていたのに、早く会いたい、と思ってしまう自分がいる。


それほど、彼が大好きだということなんだ。

 

小さな軋み音をたてて、ドアが開く。

ドアの隙間から、菊丸と不二がに気付き小さく手を振った。

も小さく振り返し、ファンタを持って出てきたリョーマに声をかける。



「お疲れ様、リョーマ君」

「ん。飲む?」



飲みかけのファンタを差し出すと、は嬉しそうに受け取る。

後ろ手でドアを閉じ、が飲み終わるのを待つ間、リョーマは濃い紫色の空を見上げた。

 

「ありがとう」

 

の声に顔を下げ、ファンタを受け取るとすぐに反対側の手での手を握る。

恥ずかしげに見てくるに気付かないフリをして、そのままゆっくり歩き出した。



こうやって、手を繋いで帰る帰り道が好き。

それはいつもと変わらない道なのに、どうしてだろう。

彼と歩くだけで、薄暗い帰り道がとても鮮やかな景色に見えてしまう。

 

今朝は気付かなかった、道路沿いにひっそりと咲く花を見つけた。

近づいてよく見ようとしたら、「取っちゃダメだよ」とリョーマ君に言われて。

「そんな子供じゃないもん」とふくれっ面をしたら、彼は小さく微笑んだ。

 

目の前を横切った、大きな白い猫。

リョーマ君がビックリした顔で、「カルピン?」と叫んだ。

だけど、よく見たら太った白い猫だった。

可笑しくて笑ったら、冷たいファンタの缶を頬に押し付けられる。

 

「もー!冷たいよリョーマ君!」

「笑った罰」

「だって可笑しかったんだもん。カルピン、って・・・ふふっ」

「もー1回罰ね」



さっきとは反対の頬に、再びファンタを押し付けられる。

冷たさが激しく伝わって、は身をよじった。



「冷たい冷たい!」



手を繋いでいない方の手で、押し付けられている缶を外す。

リョーマはすんなりと缶を離し、涼しい顔でファンタを一口。


そして何度か辺りを見回すと、頬を温めようと擦っているにキスをした。

 

不意打ちだ。

 

「リョっ、リョーマく・・・!」

「これで、熱集まるんじゃない?」



自分の頬を指差しながら、涼しい顔でリョーマは言う。

驚きと恥ずかしさで、は何も言い返せなかった。



リョーマが道端でキスをすることは滅多にない。

人通りの少ない場所ならあっても、普段の帰り道ですることはなかった。

リョーマはキスをする前に周りを確認していたが、誰にも見られていなかったのだろうか。



「だ、誰かに見られてたら・・・」

「平気。誰もいなかった」

「・・・ほんと?」

「ほんと」



本当はキスをする直前、角を曲がる赤い車がリョーマの目の端に映っていた。

だがは背を向いていたので気付いていない。

それに薄暗いから、何をしているかは多分分からないだろう。



「熱くなったでしょ?」

「・・・・・・・うん」



夕闇で頬の赤みは見えないが、それでもが恥ずかしがっているのは手に取るように分かる。

完全に足が止まってしまったの手をひいて、再び帰り道を歩いた。

 

「・・・リョーマ君」

「なに?」

「不意打ち・・・」

「まだまだだね、

「う〜・・・」

 

 

一日の終わりに迫る、夕闇。

それはバイバイの時間が近づいているというのに。

 

ただの帰り道なのに、どうしてこんなに楽しいのかな。

 

 

 

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好きな人との帰り道が、違う景色に見えるのは私だけでしょうか〜

ちなみに、赤い車は由美子姉さんの車です(笑)