朝の澄み切った空気を、胸いっぱいに吸い込む。
休日の朝に散歩をすると、頭が冴えて気持ちいい。
腕時計に目をやると、時間は十時を過ぎたとこ。
もう少しだけ、ゆっくりと流れる時間を感じていたい。
そう思って、家まで遠回りできる角を曲がったら。
「」
聞き覚えのある、低い声が聞こえて。
顔をあげると、大好きな彼が少し驚いた表情で立っていた。
10.日のあたるベンチ
私と手塚君が付き合い始めたのは、つい最近。
彼は実績あるテニス部の部長で、生徒会長。
私と違ってとても忙しい。
会えるのは、ほとんどが学校。
一緒にいれるのは、大半が帰り道。
たまの休日も、彼からデートに誘ってくれることはほとんど無い。
友達からは、よく耐えられるね、なんて言われるけれど。
それでも一緒にいたいのは、手塚君が大好きだから。
曲がり角で偶然会った手塚君は、持っていたカバンを肩にかけなおした。
本でも入っているのか、ちょっと重そう。
「偶然だな」
「うん。手塚君、もしかして図書館行ってたの?」
「ああ」
真面目な彼は、休日でも図書館へ行く。
今日部活はあるのかと聞くと、午後からあると首を縦に振った。
「そっか・・・」
部活がなかったら、遊べたんだけどな。
彼と休日一緒にいれるなんて、めったにないのに。
肩を落とした私を見て、手塚君が小さく咳払いをした。
彼らしくもなく、言葉を濁して。
「今、時間はあるか?・・・少し、公園にでも寄ろう」
ひょっとしたら、残念がった私に気を遣ってくれたのかもしれない。
それでも、学校じゃない場所で二人でいれることが、私にはとても嬉しかった。
近くにある、決して広いとは言えない公園に入る。
ベンチが二つと、ブランコがぽつんと立っていた。
木製のベンチに手塚君が近づき、軽く汚れを払って座らせてくれた。
何気ない仕草だけど、彼の優しさがよく分かるよね。
二人で腰を下ろすと、気持ちのいい日差しが降り注いでくれた。
さっきまで日が当たっていたからか、お尻がほんのり温かい。
公園に来たからといって、手塚君がお喋りになるなんてことはない。
普段から寡黙な人だし、それが嫌だと思ったことはない。
こうやって一緒にいる時間が、何よりも大切だから。
眩しいほどの日差しに目を細めていたら、手塚君がそっと口を開いた。
「・・・久しぶりだな」
「え?」
彼の横顔は、ほんの少し眉を寄せている。
「こうやって二人でいることだ。・・・なかなか一緒にいれなくて、すまない」
「そんな・・・」
彼の言葉に、私は正直驚いている。
だって、手塚君がそんな風に思っているなんて、思いも寄らなかったから。
「謝らなくて、いいのに・・・」
私はただ、一緒にいれるだけでも幸せなのに。
「手塚君は、やるべきことがたくさんあるし・・・謝ることじゃないよ?」
「だが・・・」
「だって私は、手塚君が大好きだもん」
不意打ちの言葉に、彼は驚いたように振り向いた。
降り続ける太陽の光で、体の熱が上がるのを感じた。
・・・きっと、日差しのせいだけじゃないと思うけれど。
「会えなくたって、二人でいれなくたって、手塚君が大好きだから耐えられるもん・・・」
彼に面と向かって言うのは、すごく恥ずかしい。
だけどこれが、私の精一杯の“ありがとう”だから・・・。
赤くなった顔を見られないように、自分の膝をジッと見つめる。
表情は分からないけれど、彼の視線は充分に感じた。
「・・・そうか・・・」
手塚君は一言だけ言うと、私の膝の上に置いてある手をとって、優しく握ってくれた。
めったにないことに、思わず顔をあげる。
気持ちのいい風が頬を撫で、彼の前髪を揺らした。
「明日、またここで会おう」
「え・・・学校は・・・?」
「明日は祭日だ。忘れているのか・・・」
「あっ、そっか!」
一瞬何の日かと考えたけれど、すぐに思考が変わる。
・・・久しぶりの、休日デートのお誘い。
嬉しくて言葉の出ない私を見て、手塚君は眉をひそめた。
「予定があるのか?」
「う、ううん!ないよ!」
「そうか」
必死に首を横に振ると、彼は小さく頷いた。
もし、今日散歩をしようと外に出ていなかったら、手塚君に会うことはなかったかもしれない。
何気ないことが、明日の幸せに繋がっていくんだね。
また明日ここで会おう、この日のあたるベンチで。
大好きな彼と、暖かな太陽に迎えられたい。
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初手塚夢。 しょぼーん(´゜ω゜)
手塚って、恋愛には絶対疎いと思います。
相手のことはもちろん好きなんだけど、接し方が不器用で。
だけど、何気ないしぐさが優しかったり、とか、そんな人。
自分の心のうちを手塚はなかなか表現しないので、
恥ずかしながらも素直にものを言うヒロインがお似合いではないかと。